新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』読解力試しとしても使える一石二鳥の本。

読書

この記事は2023年10月にサービスが終了した読書サイト『シミルボン』に投稿していた記事である。ボクの日記から推定すると、記事の公開は2020年11月頃。

800字要約風

 前著の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』では、AI(技術)の解決困難な課題として文章の読解がある一方で、今日の児童の多くも文章の読解が十分にできていないことが明らかにされ、彼らの職業がAIによって代替されかねないという問題提起がなされた。前著に続く本書では、特に読解力の問題に特化して、その評価法の紹介と現状の分析と教育についての提言が示されている。

 AIの自然言語処理能力の限界を洗い出すために作成されたリーディングスキルテスト(RST)は、AIにとって困難な「事実について書かれた短文を正確に読むスキル」を問うものである。本書では、大人向けのRSTの例題とその結果分析が示されており、読者が自らの読解力を評価できるようになっている。著者はRSTにより基礎的・汎用的な読解能力を評価できることをデータに基づいて示すとともに、RST能力値の高さと高校の偏差値との間の強い正の相関関係を根拠に読解力の重要性を説いている。

 続いて、いかに子どもの読解力を向上させるかが問題とされる。RSTの問題を解くことは読解力を向上させる手段にならないこと、キーワード穴埋め型など誘導型のプリント学習が読解力の向上を妨げかねないこと、一見創造性のない板書の筆写や見たままを記す作文が読解力向上に有用であることを説いている。

 また、小学校中学年から中学生を対象として、実際に実践された3つの授業を提案するとともに、2022年度から実施される新学習指導要領の下での新しい国語教育に関して提言を行っている。

 最後に、幼児期から小学生を対象にリーディングスキルを向上させると著者が考える教育のあり方をまとめるとともに、30代後半で読解力の向上に成功した菅原氏の手記を掲載し、読者の実践面での関心に応えている。

200字雑感

 どのような教育上の工夫が実際に効果を上げ得るのか、RSTという実証データを基に議論する素地を作った著者の功績は極めて大きい。有償版RSTの開発には前著の印税を投資したそうで、続く本書の印税は幼稚園から高校までの教育機関のホームページを無償で提供するプラットフォームの構築に役立てたいという。私は本書を図書館で借りたが、早速返却して購入することにした。研究者としての枠組みに留まらない著者の活躍に脱帽である。

おまけ①:お試し版RSTの私の成績と負け惜しみ

本書に収録されているお試し版RSTを解いたところ、28問中4問を誤答し、70点中60点の結果となった。ただの負け惜しみかもしれないが、以下では誤答した問題の「正解」に対して反論を試みる。
※手元に本がある前提で書いています。

【問15、推論問題】(3点)
③の「判断できない」を選択した。「難民・国内避難民」という分類と、「国境を超えた難民」との関係について、正確に判断しかねるという理由で③を選択した。つまり、「難民」の中には、(国内避難民とは別に)国境を超えない難民がいるのかどうかを、断定しかねた。もちろん、国境を超えない難民が国内避難民であると推論するのが妥当ではあるが、明示はされていないので、形式論理に従えば判断できない。

【問21、具体例同定(辞書)】(1点)
②と④のみを選択した。大学で教育を受けることが消費活動にあたるのか判断しかねた。これが消費活動なら、義務教育を受けるのも消費活動だろうか?そうではないだろう。私が言いたいのは、少なくともこの問題に正答するのに、大学は義務教育ではないという「常識」が必要だということだ。
また、「消費」の定義を示した文には「人間が欲望を満たすために」とあるが、選択肢に示された行為について、その行為者が自らの欲望に従って行為したのかは明白ではない、という指摘もできる。

【問24、具体例同定(辞書)】(4点)
①と④のみを選択した。「ぼんやり」が擬態語に含まれるか否かで迷った。私には「ぼんやり」というのが、「音声にたとえて表した」ものに思えなかった。たとえば、「ぼんやりした光」というのは、音声にたとえているとは言えないだろう。「ぼんやりと時を過ごす」の「ぼんやり」と「ぼんやりとした光」の「ぼんやり」は異なるものだろうか?

【問26、具体例判定(理数)】(2点)
①と④のみを選択した。問題文に従えば、選択肢から選ぶべきは条件(1)と(2)を満たすものであって、「3つの文字a、b、cを用いた文字列で」という条件を満たさなければならないとは書かれていない。したがって、④は排除できないのではないか。

おまけ②:関連ページの紹介

RSTについてご興味のある方は、実施主体である「教育のための科学研究所」のページで、紹介動画を視聴することができる:
https://www.s4e.jp/about-rst

また、大修館書店のサイトで、著者の新井氏と哲学者の野矢茂樹氏による「生きるための論理」と題した対談を閲覧することができる:
https://www.taishukan.co.jp/kokugo/media/blog/?act=detail&id=39

なお、「200字雑感」で少し触れた教育機関向けのホームページ運用サービスは既に始動しているらしく、次の書籍が出版されている:

IT超初心者のためのedumap活用スピードガイド -edumap公式マニュアル

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