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エミール・デュルケム『社会学的方法の規準』を読む その1――社会をモノのように扱う

デュルケムの『社会学的方法の規準』(1895年)を読む試みです(第1回/全3回)。 エミール・デュルケム(1858-1917)といえば『自殺論』が有名であるが、中公文庫で買ってまもなく字の大きな新装版が同文庫で出版されたショックで放置したまま、読んでいない。最近自分の中で社会学への関心が俄に高まり、社会学の始祖の一人として著名なデュルケムの方法論的アプローチを示した代表作として本書が読んでみたくなった。読んでからかなり経ってしまい、何が書いてあったか大分忘れてしまったが、社会的な現象をモノのようにして扱う、というテーゼと、犯罪は必要ですらあるという新奇なテーゼ、および、社会を科学的に探究するための方法論的考察への真摯な姿勢が印象に残っている。以下、復習。
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新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』読解力試しとしても使える一石二鳥の本。

前著の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』では、AI(技術)の解決困難な課題として文章の読解がある一方で、今日の児童の多くも文章の読解が十分にできていないことが明らかにされ、彼らの職業がAIによって代替されかねないという問題提起がなされた。前著に続く本書では、特に読解力の問題に特化して、その評価法の紹介と現状の分析と教育についての提言が示されている。
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戸田山和久『教養の書』本屋で衝動買い。まっとうな教養論

本屋で見つけて衝動買い。まず装丁がウケる。高校時代に宣教師に声をかけられ受け取った『モルモン書』を思い出してしまった。「どうだ、出してやったぜ!」と言わんばかりのタイトルと“立派な”カバー。これはこの人にしか書けない本だ。 この本は特に大学新入生に向けて、教養とは何か、教養への道を妨げるものは何かを説き、オマケに教養を身につけるためのアドバイスを紹介している。私も大学入学時にこの本を手にすることができれば、もう少し賢明な大学4年間を送れたかもしれないと思うとつくづく残念だ。
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汗牛足vol.39 21世紀人としてグローバルに物事を考える本

ハラリのの“21 Lessons for the 21st Century”はこれまで紹介してきた『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』とはちょっと性格が異なる書物なのです。以前の著作が大きな視点で人類の物語を描くようにして記述されていたのに対し、この最新作は現在に焦点が絞られています。タイトルが示すように21の章が集まって構成されているのですが、各章の内容はお互いにほぼ独立しており、例えば「戦争」や「移民」、「瞑想」といったテーマごとに、現在を生きる私たちを念頭に置いて考察する内容になっています。
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汗牛足vol.38 ホモ・デウス――人類の未来を考える

ハラリの『ホモ・デウス』はサピエンスの未来に重点を置いています。ただし、この本は人類の未来を予言したり予想したりするものではありません。ましてや、我々はこのような未来を目指すべきだ、といった指針を示す本でもありません。この『ホモ・デウス』で提示されているのは、「我々はどこへ行きたいのか」を考えるための材料なのだと思います。結局のところ、未来がどうなるかなんて誰にも本当のところは分かりません。しかし、本書を読んで過去と現在についての理解を深めることで、人類の未来についてもっと豊かに想像することができるようになるかもしれません。
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汗牛足vol.37 サピエンス全史――実は人類は幸福になっていない?

今回も引き続きユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』を取り上げます。科学革命がもたらした変化の後半戦を取り上げたうえで、本書の本丸とも言える、サピエンスの幸福に関する興味深い議論を紹介します。ここまで過去500年の科学革命の流れをざっと見てきました。確かにホモ・サピエンスは繁栄し、物質的にはるかに豊かな社会、より安全でより長生きできる社会を作り上げました。しかし、とハラリは問います。「私たちは以前より幸せになっただろうか?」
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汗牛足vol.36 サピエンス全史最大の難所、「科学革命」が深い

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』科学革命と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?コペルニクスの地動説でしょうか、『方法序説』のデカルトでしょうか、「知は力なり」のフランシス・ベーコン?いやいや、やっぱり「プリンピキア」こと『自然哲学の数学的諸原理』を著したニュートンでしょうか。いずれにせよ、17世紀ごろにヨーロッパで始まった近代科学の勃興を思い浮かべる人が大半だと思います。しかしユヴァル・ノア・ハラリの描く「科学革命」はそれとはどうも雰囲気が違うのです。
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汗牛足vol.35 サピエンス全史――21世紀必読のベストセラー

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』この本は人類、とりわけ私たちホモ・サピエンスのこれまでの歩みをマクロな視点から描いたものです。本書によれば、人間の歴史の大きな流れは3つの革命によって決定づけられました。すなわち、認知革命、農業革命、科学革命の3つです。本書の記述は、これらの革命が人間の文化・文明に与えた影響を軸にして、それに関連する豊富な話題を織り交ぜながら展開していきます。
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汗牛足vol.34 実践的で楽しく学べる大人のための国語ゼミ

野矢茂樹『増補版 大人のための国語ゼミ』この本は以前に本屋で見つけてから気になっていて、夏休みに図書館で借りて読んでみたのですが、案外面白くてためになった本です。この10月に増補版が出たので早速購入しました。著者の野矢茂樹は哲学者で、論理学の本や、「論理」の名の付いた実用書などを出しています。その中でも『論理トレーニング101題』はそこそこ有名(?)で、こちらの本もやってみると面白かったのですが、今回紹介するのはそれよりもさらに一般向けにできている『大人のための国語ゼミ』です。
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汗牛足vol.33 「自然淘汰」のメカニズムを知ると世界観が変わった。――利己的な遺伝子、気まぐれなミーム

ドーキンス『利己的な遺伝子 40周年記念版』 今回取り上げたいのはR・ドーキンスの『利己的な遺伝子』です。初版は1976年の本なのですが、40周年記念版が出版されているというのですから紛れもなくロングセラーですね。間違いなく「古典」の部類に入る、入っていく本だと思います。