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汗牛足vol.32 文明化が人体にもたらした光と影――肥満になる意外な理由

リーバーマン『人体六〇〇万年史』 今回は、前回に引き続いてダニエル・リーバーマンの『人体六〇〇万年史』の紹介です。前回は進化・ミスマッチ病・ディスエボリューションという、この本の基本的な考え方を紹介しましたが、今回はもう少し具体的な話ができればと思います。えっ、何の話だったっけ、という方は先に前回分をもう一度ざっと読んでみるといいかもしれません。
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汗牛足vol.31 現代人は体の使い方を間違っている?――進化と健康の面白い関係

リーバーマン『人体六〇〇万年史』 率直に言って、この本は抜群に面白かったです。そして面白いと同時に、自分の健康について考え直すのにいいきっかけになりました。著者はハーバード大学の人類進化生物学の教授だそうですが、こんなに一般向けに分かりやすくて質の高い(そして幅広い教養をうかがわせる)作品を研究者が書いたことに驚きです。
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汗牛足vol.30 自由意思なんかなくても意外と困らない?――驚きの哲学入門

戸田山和久『哲学入門』ちくま新書 『哲学入門』というタイトルですけど、「入門書」だと思って読むと痛い目に合います。というのも、まず新書のくせに400ページ強もあること!そして内容も一般的な入門者向けの哲学本とは一線を画していて、哲学史で有名な人たちはほとんど出てきません(ソクラテスもデカルトも出てこない。カントは登場したと思ったら即座に退場)。
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汗牛足vol.29 刑事裁判で無実の罪を着せられるリスクは想像以上だった件。

今村核『冤罪と裁判』講談社現代新書 今回のテーマはズバリ、冤罪。罪を犯していないにもかかわらず罰せられるなんて、そんなことめったにないだろうし自分には関係ないよ、と思っていませんか。まあ私もこれまではなんとなくそう思ってきたのですが、いろいろ調べてみると、そんなに呑気なことを言っていられるほど、日本の現状を楽観視できないと思うようになりました。
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汗牛足vol.28 死刑制度について哲学的に考察した結果。

萱野稔人『死刑 その哲学的考察』ちくま新書 死刑は命を奪う刑罰である以上、当然重いテーマになりますが、それについて本書とともに考えをめぐらせることはとても良い哲学的思考の練習になるとともに、筆者の論展開はなかなか鮮やかで、楽しませてもらいました。「哲学的考察」と聞くと難しそうで読む気がしないという人もいるかもしれませんが、文章は平明でくどいくらい丁寧なので理解はしやすいです。この本のよいところは、「死刑は廃止すべきだ」「廃止すべきでない」といった結論ありきの議論ではなく、あくまで死刑そのものについて考察しよう、結論はその上で導き出そう、というスタンスを取っていることです。
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汗牛足vol.27 自由意思は存在しない?脳科学で考える。

デイヴィッド・イーグルマン『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』神経科学者による脳科学の本ですが、素人の私にはいろいろと発見がありました。一般向けに分かりやすい言葉で書かれていて読みやすい本です。個人的にはもう少し専門性というか、学術性が高くてもいいと思いました。
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汗牛足vol.26 人と、微生物と、抗生物質の奇妙な関係

ブレイザー『失われてゆく,我々の内なる細菌』この本を一言で表すなら、抗生物質の過剰使用に警鐘を鳴らす本でしょう。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の現代版といったところでしょうか。ぼくはこの本を読んでいろいろ認識を改めたところがあるので、以下ではそのうち3つについて書こうと思います。最初に書いた3つの質問に答えながら述べていくことにしましょう。
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汗牛足vol.25 ガリヴァーvsクルーソー イギリスの植民地主義をめぐって

前々回に、『ロビンソン・クルーソー』は掠奪から植民・貿易へと転換するイギリス社会という時代背景と密接に関わったリアルな本だったと書きました。それだけに主人公クルーソーはまさにこの時代の申し子であって、プランテーション経営にも乗り出しますし、奴隷の密貿易も計画していたわけです。ところがガリヴァーは違います。そもそもガリヴァーはあくまで船医として船に乗っていたので、彼は直接貿易に関わっていたわけではないのです。
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汗牛足vol.24 ガリヴァーは人間嫌いだった!?

スウィフト『ガリヴァー旅行記』ガリヴァーさんは難破して小人の島に流れ着き、目覚めたら糸で体を縛られていた、それくらいは知っているけどそれ以上はハテナでした。ところがエラスムスの『痴愚神礼賛』を読んで諷刺の面白さに目覚め、この作品も諷刺文学の傑作と聞いてどんなものかと読んでみることに。諷刺そのものはイギリス史に明るくないのでよくわからないことがほとんどでしたが、個人的には『ロビンソン・クルーソー』より面白かったです。
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汗牛足vol.23 ロビンソン・クルーソーの無人島は絶海孤島ではなかった?

ロビンソン・クルーソーって無人島で一人でサバイバルした話、という程度の認識しかなかったのですが、今年の夏になって初めて読んで、案外奥が深いと思いました。読んでいるときは少々かったるく、まあこんなものか、と思っていましたが、訳者・増田義郎の解説を読んでびっくり、蒙を啓かれる思いがしました。この小説は単に、絶海の孤島で自助努力した男の物語、あるいは孤独のうちに信仰に芽生えた男の物語にとどまるものではなかった!