読書

読書

汗牛足vol.28 死刑制度について哲学的に考察した結果。

萱野稔人『死刑 その哲学的考察』ちくま新書 死刑は命を奪う刑罰である以上、当然重いテーマになりますが、それについて本書とともに考えをめぐらせることはとても良い哲学的思考の練習になるとともに、筆者の論展開はなかなか鮮やかで、楽しませてもらいました。「哲学的考察」と聞くと難しそうで読む気がしないという人もいるかもしれませんが、文章は平明でくどいくらい丁寧なので理解はしやすいです。この本のよいところは、「死刑は廃止すべきだ」「廃止すべきでない」といった結論ありきの議論ではなく、あくまで死刑そのものについて考察しよう、結論はその上で導き出そう、というスタンスを取っていることです。
読書

汗牛足vol.27 自由意思は存在しない?脳科学で考える。

デイヴィッド・イーグルマン『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』神経科学者による脳科学の本ですが、素人の私にはいろいろと発見がありました。一般向けに分かりやすい言葉で書かれていて読みやすい本です。個人的にはもう少し専門性というか、学術性が高くてもいいと思いました。
読書

汗牛足vol.26 人と、微生物と、抗生物質の奇妙な関係

ブレイザー『失われてゆく,我々の内なる細菌』この本を一言で表すなら、抗生物質の過剰使用に警鐘を鳴らす本でしょう。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の現代版といったところでしょうか。ぼくはこの本を読んでいろいろ認識を改めたところがあるので、以下ではそのうち3つについて書こうと思います。最初に書いた3つの質問に答えながら述べていくことにしましょう。
読書

汗牛足vol.25 ガリヴァーvsクルーソー イギリスの植民地主義をめぐって

前々回に、『ロビンソン・クルーソー』は掠奪から植民・貿易へと転換するイギリス社会という時代背景と密接に関わったリアルな本だったと書きました。それだけに主人公クルーソーはまさにこの時代の申し子であって、プランテーション経営にも乗り出しますし、奴隷の密貿易も計画していたわけです。ところがガリヴァーは違います。そもそもガリヴァーはあくまで船医として船に乗っていたので、彼は直接貿易に関わっていたわけではないのです。
読書

汗牛足vol.24 ガリヴァーは人間嫌いだった!?

スウィフト『ガリヴァー旅行記』ガリヴァーさんは難破して小人の島に流れ着き、目覚めたら糸で体を縛られていた、それくらいは知っているけどそれ以上はハテナでした。ところがエラスムスの『痴愚神礼賛』を読んで諷刺の面白さに目覚め、この作品も諷刺文学の傑作と聞いてどんなものかと読んでみることに。諷刺そのものはイギリス史に明るくないのでよくわからないことがほとんどでしたが、個人的には『ロビンソン・クルーソー』より面白かったです。
読書

汗牛足vol.23 ロビンソン・クルーソーの無人島は絶海孤島ではなかった?

ロビンソン・クルーソーって無人島で一人でサバイバルした話、という程度の認識しかなかったのですが、今年の夏になって初めて読んで、案外奥が深いと思いました。読んでいるときは少々かったるく、まあこんなものか、と思っていましたが、訳者・増田義郎の解説を読んでびっくり、蒙を啓かれる思いがしました。この小説は単に、絶海の孤島で自助努力した男の物語、あるいは孤独のうちに信仰に芽生えた男の物語にとどまるものではなかった!
読書

汗牛足vol.22 マクロな視点で500年ほどの歴史の流れがつかめる本

川北稔『世界システム論講義』世界システム論の提唱者はアメリカの社会学者、イマニュエル・ウォーラーステインです。本書の著者、川北稔はこの世界システム論を日本に紹介した第一人者として知られているようです。本書はもともと大学の講義資料だったらしく、わりに読みやすいです。マクロな視点で500年ほどの歴史の流れがつかめるのが何よりの魅力だと思いました。
読書

汗牛足vol.21 修道士が告発する大航海時代の暗部

ラス・カサス『インディアス破壊についての簡潔な報告』今回はスペインの修道士の著作を紹介。没後に母国で禁書にされてしまった彼の『報告』とはどのようなものだったのでしょうか。タイトルの「インディアス」というのはスペインが領有していた西インド諸島、南北アメリカ大陸の地域のこと。そこに住む先住民が「インディオ」です。コロンブスがスペイン宮廷の援助を頼りに「インド諸島」に到達し、アメリカを「発見」したのは1492年のことでしたが、スペインはこうした探検事業に続けて征服事業を展開していきます。
読書

汗牛足vol.20 マキャヴェッリの秀逸な「悪書」

前回のラブレーからは少しだけ時代をさかのぼって、マキャヴェッリの『君主論』を紹介します。存外に読みやすい、そして引き込まれた本です。とくに、あるテーマについて述べようとするとき、まず対象を分類することから始めて、それからそれらを一つずつ、実例を挙げながら検証するという論の進め方には彼の知性を感じずにはいられませんでした。
読書

汗牛足vol.19 ラブレーが命懸けで出版した禁断の奇書

エラスムス、トマス・モアに続いて、今回はフランソワ・ラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』を取り上げます!本書は全部で4巻ないし5巻からなる大作です。ジャンルは強いていえば小説。文庫本で結構な分量になります