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汗牛足vol.18 「ユートピア」は「理想郷」ではなかった!?

トマス・モア『ユートピア』「ユートピア」という言葉は、理想郷ともいわれ、普通に用いられている語ですが、実はこの本がもとになっているんですね。実はこの造語にはある意味が込められているのですが、それについて触れる前に、本書の内容をざっと紹介しておきます。『ユートピア』は第一部と第二部の二部構成になっています:第一部は船旅で様々な国々を訪れたヒュトロダエウスという人物と、トマス・モアが友人を介して知り合うところから始まります。
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汗牛足vol.17 おバカの女神さま、バンザイ!

エラスムス『痴愚神礼賛』「痴愚神礼賛」とは、いかめしい感じのタイトルですが、「おバカの女神さま、ばんざい!」という程度の意味です。話の筋は、悪しきざまに思われている「痴愚女神」が、「みなさま」を前に自分で自分を褒めたたえる、というシンプルなもの。痴愚女神いわく、「私は人間どもの恩知らず、というか無関心にはただただ呆れ果てています。万人こぞって私を崇め、私の恩恵を受けていると感じながら、かくも何世紀にもわたって、感謝の弁舌をふるって、痴愚女神を礼賛称揚する人物が一人としていなかったのですから。」
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汗牛足vol.16 鎌田センセの講義を受けて

地学への興味が高じて「地球科学入門」という講義をモグリで受けています。これは文系向けの講義なのですが、なかなかおもしろい。(雑談率)=(雑談時間)/(講義時間)×100〔%〕と定義すると、雑談率5%でもそれなりにありがたい講義だと思うのですが、この講義はどう考えても50%を超えている(あくまでぼくの印象)。ここまでくると雑談(=地学の本筋の内容とは関係ない話)が主役になってしまっているので、「地球科学入門」なんて講義名は変更すべきでしょう!
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汗牛足vol.15 チェンジング・ブルー、必読のノンフィクション

大河内直彦『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』この本は地学の中でも気候やかつての地球の様子について書かれているものですが、いやはや、その話題の面白さにすっかり引き込まれてしまいました。著者は気候変動の歴史を学ぶ学生のための副読本としてこの本を作ったらしいのですが、一般人が読んでも相当に面白い。成毛眞という実業家でノンフィクションを紹介している人がいるのですが、その人が絶賛して知られるようになり、文庫にまでなったという本。
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汗牛足vol.14 専門用語まみれのナンセンスを告発する本

アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン『「知」の欺瞞 ポストモダン思想における科学の濫用』1996年4月、アメリカのポストモダニズム系の雑誌の特集号に、アラン・ソーカルという物理学者の「境界を侵犯する――量子重力の変形解釈学に向けて」という論文が掲載されました。しかしこの雑誌が出てからわずか3週間後、ソーカルは別の雑誌でこの論文がポストモダニズムのパロディ論文(編集者の好みには沿っているが、科学的概念の濫用をした、でたらめな内容のインチキ論文)であると暴露しました。
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汗牛足vol.13 ファスト&スロー

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』原題は “THINKING, FAST AND SLOW” で、日本語版の副題は「あなたの意思はどのように決まるか?」となっています。内容は副題が示す通りで、人間は大体において適切な判断を下すことができるが、時に合理的でない選択や、不正確な判断をすることがわかる、しかもそれを体感できてしまう本です。ぼく自身人間についての認識が強く揺さぶられる思いがしましました。一般向けに大変わかりやすく書いてあるので、アカデミックな内容を期待する人には論の進め方などで不満な点があるかもしれませんが、それを差し引いても多くの事例が紹介されていて楽しめる本だと思います。
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汗牛足vol.12 99.9%は仮説。残りは?―分かりません。

竹内薫『99.9%は仮説』著者は割にテレビに出たりしているので知っている方もいるかもしれません。読みやすい文体でササッと読めるのでわざわざ買うほどの本でもない……なんて言うと怒られるかもしれませんが、とりあえずぼくが共感した箇所と、ホウ、そんな考え方があるのかと思った点に絞って紹介します。
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汗牛足vol.11 366日、トルストイ三昧。

トルストイ作『文読む月日』英語では‟A Calendar of Wisdom” などと訳されるこの本、「1日を1章とし、一年366日、古今東西の聖賢の名言を、日々の心の糧となるよう、結集・結晶させた、一大「アンソロジー」」という裏表紙の売り文句に惹かれてしまいました。500ページ超の文庫で3冊もの分量ですが、新年を迎えたことだし毎日ちびちび読んでいこう、と画策しております。
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汗牛足vol.10 ビッグデータと人工知能

西垣通『ビッグデータと人工知能』最近「シンギュラリティ」という言葉を聞いて、へえ、そんな考えもあるのかと思って手に取ったのがこの本です。人工知能やIT関連の分野には疎いので読みがあまいかもしれませんが、割に冷静に書かれたいい本ではないかと思っています。まずはタイトルに入っている「ビックデータ」と「人工知能」の二つの言葉が本書でどのように扱われているかざっと見てみます。ビックデータというのは文字通り膨大なデータですが、それに加えて内容や形式が多様であることや、高速でとめどなく生成されることが特徴として挙げられています。
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汗牛足vol.9 読んでいない本について堂々と語る方法

ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』著者は精神分析家なので、読書という行為の解釈も、多分に精神分析学が反映されていることをはじめに断っておきます。精神分析というのはかのジークムント・フロイトによって創始され、れっきとした一つの学問分野となっていますが、ぼくはかなりうさんくさいと勝手に決めつけています。しかし無意識の深層から説明するその手法はかなり魅力的で、おもしろいことは確かです。