汗牛足vol.11 366日、トルストイ三昧。

読書

「汗牛足」はボクが大学生の時に発行していた本の紹介メルマガである。基本的に当時の原文のままなので誤りや内容面で古いところがあるかもしれないが、マジメ系(?)大学生の書き物としてはそれなりに面白いものになっていると思う。これを読んだ人に少しでも本に興味を持ってもらえたら望外の喜びというものだ。


汗牛足(かんぎゅうそく)vol.11 (2017.1.15発行)


◆今回は一風変わったカレンダー(?)を紹介します。

■レフ・トルストイ作、北御門二郎訳『文読む月日 上・中・下』ちくま文庫(1908/1983-1984,2004)

英語では‟A Calendar of Wisdom” などと訳されるこの本、「1日を1章とし、一年366日、古今東西の聖賢の名言を、日々の心の糧となるよう、結集・結晶させた、一大「アンソロジー」」という裏表紙の売り文句に惹かれてしまいました。500ページ超の文庫で3冊もの分量ですが、新年を迎えたことだし毎日ちびちび読んでいこう、と画策しております。一日分は大体3,4ページで、7日ごとに「一週間の読み物」というちょっとした読み物がつくという構成になっていて、まさに毎日読んでいくのにうってつけです。一日分の中身は基本的に一つのテーマに沿って8つ前後の名言が集められています。その名言にはトルストイ自身による言葉も多くあるのですが、聖書や論語からの引用もありますし、聖書と並ぶユダヤ教の聖典『タルムード』、はたまた仏陀の言葉や老子、ルソーやパスカル、カントやショーペンハウアーまで、あらゆるところから引用されています。

ちょっと例を挙げると、たとえば1月1日。「第二義的なもの、不必要なものを多く知るよりも、真に善きもの、必要なものを少し知る方がよい」というトルストイの言葉から始まり、「まことにわれわれは、人生における最大の精神的恩恵を書物に負うているのである」と結論するエマーソン、「もしもわれわれが、その嚥下したものをよく反芻し、消化しないならば、書物はわれわれに力と栄養とを与えないであろう(ロック)」、「過度の乱読は、頭脳を散漫にする。それゆえ、異論なく良書と認められたものだけを読むがよい(セネカ)」、「何をおいてもまず、良書を読むことである。でないと、とうとう一生涯読まないで終わることになるだろう(ソロー)」、「自分自身の思想が涸渇したときに、はじめて書物を読むべきである(ショーペンハウアー)」、「悪書は単に無益であるのみでなく、断然有害である。(中略)これらの害毒に対する対抗手段として、我々は是非“読まない術”を学ばねばならない(再びショーペンハウアー)」と続いて、「物質的毒物と精神的毒物との差異は、前者の大多数が不快な味を伴うのにひきかえ、新聞とか悪書とかいった精神的毒物は、往々にして魅惑的である点に存する」とトルストイが結んでいます。この調子で366日続く上に一週間ごとに読み物までつけるなんて頭が下がりますね。

トルストイ(1828~1910)といえば『戦争と平和』、『アンナ・カレーニナ』、『復活』の三大長編を書いた、ドストエフスキーと並ぶ19世紀ロシアの大文豪として、また「トルストイ主義」の名で知られる思想家としても有名です。19歳で大学に幻滅して退学したり、理想主義的な農村経営に失敗して放蕩にふけったり、晩年には自身の作品を否定して著作権を放棄したり、最期は家出して駅のトイレで亡くなったとか、いろいろ波乱万丈な生涯を送ったようです。トルストイとドストエフスキーは割に好みが分かれるらしく、ぼくは高校生のときは断然ドストエフスキー好きだったのですが、最近トルストイを見直すようになりました。とはいっても忙しくてあまり読めていないのですが。

この『文読む月日』はトルストイの作品の中ではあまり知られていないように思いますが、素晴らしい読み物だと思います。(ただし読者層は毎日続けられる根気のある人に限られるかもしれませんが、これは他のトルストイの大作にも共通することです。)ただ、読んでいるとキリスト教や信仰に関する言葉がやけに多く出てくる気がします。現に本日1月15日も「キリスト教の根本的意義は、人間、すなわち神の子と父なる神との直接的交流の樹立にある」という一文から始まっています。まあトルストイは熱心なキリスト教徒といいますか、しかし意志の強い人で、「協会キリスト教はキリスト教でないばかりか、真のキリスト教の最も悪質な敵である」との一文には思わず笑ってしまいましたが、実際彼は晩年の『復活』の内容がもとでロシア正教会に破門されています。彼の思想にはなじめない部分もありますが、それでもちょっと考えさせられる名言が詰まっていて、これを毎日読めばもう少し思慮深く自覚的な日々を送ることができるかも、と期待しています。

◆あとがき

トルストイは19歳から日記を書き始め、大作『戦争と平和』執筆期間以外は生涯続いたんだとか。うーん、じゃあボクも二十歳になる前に日記でもつけてみるか!……と思っただけでまだ実行に移せてません。なんだかんだで学期末になると試験だのレポートに追われて、日記をつける暇もなく、とにかく時間がほしいですね、あとは空気が必要です、空気、空気、空気!……みなさんこまめに換気して健康に気を付けてください。

(乱雑なあとがきをどうかご容赦ください。)

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