汗牛足vol.16 鎌田センセの講義を受けて

読書

「汗牛足」はボクが大学生の時に発行していた本の紹介メルマガである。基本的に当時の原文のままなので誤りや内容面で古いところがあるかもしれないが、マジメ系(?)大学生の書き物としてはそれなりに面白いものになっていると思う。これを読んだ人に少しでも本に興味を持ってもらえたら望外の喜びというものだ。


汗牛足(かんぎゅうそく)vol.16 (2017.6.17発行)


◆地学への興味が高じて「地球科学入門」という講義をモグリで受けています。これは文系向けの講義なのですが、なかなかおもしろい。(雑談率)=(雑談時間)/(講義時間)×100〔%〕と定義すると、雑談率5%でもそれなりにありがたい講義だと思うのですが、この講義はどう考えても50%を超えている(あくまでぼくの印象)。ここまでくると雑談(=地学の本筋の内容とは関係ない話)が主役になってしまっているので、「地球科学入門」なんて講義名は変更すべきでしょう!担当の先生は鎌田浩毅という奇抜なファッションでも知られている人で、まあ試しに検索してもらえれば赤い服を着たおじさんが出てくるはずです(本人曰く派手な格好をすると話を聞いてもらいやすくなったからこうしているとか)。著作も一般向けに多く書いていて、多すぎて困るくらいなのですが、まずは講義で教科書に指定されている2冊を紹介します。

■鎌田浩毅(2016)『地球の歴史 上・中・下』中公新書

ズバリタイトル通りの内容で、この本に沿って講義が進められるのが本来だと思うのですが、講義での出番は多くないですね……。でもわかりやすくて、地学の内容が生物・化学・物理に及んでいて、刺激的でとても興味深い本です。書くのに8年かかったと聞いて、やはりこれだけのものを書くには相応の時間が要るのだなと感心。しかし先生の記述はときどき正確さを欠いている気もしないでもない。

■鎌田浩毅(2005)『成功術 時間の戦略』文春新書

タイトルから分かるように、「地球科学」とは関係ない本です。とはいえ、この本は高校生~大学生なら一度は読んでおいて損はないと思います。ざっくり言うとビジネス書の類ですが、研究者の立場も盛り込まれていますし、古典の重要性を説いて引用してくれているところもあるので、ぼくにはうれしい発見もありました。ビビビッと来た人は機を逃さないうちに一読を勧めます。

◎さて、次に紹介するのは(これが今回のメイン)、ぼくが鎌田先生のその他の本をいくつか読んでみてこれが一番かな、と思ったものです。

■鎌田浩毅(2013)『生き抜くための地震学』ちくま新書

「……戦後の復興期と高度経済成長期に日本列島で地震が少なかったのは、僥倖以外の何物でもなかったのです。それが1995年に神戸市に直下型地震をもたらした阪神・淡路大震災で終了しました。さらに、2011年から日本列島の地盤は新たな変動期に突入したのです。」

ぼくはこれまで、自分の一生で大きな地震に見舞われるというシナリオはほとんど持ってきませんでした。しかし最近になって、30年以内に日本が大震災に見舞われることはほぼ確からしく、自分も被災することは十分あり得るというビジョンが明確になってきました。また、地震のみならず富士山に代表される活火山の噴火のリスクも決して侮れないことを認識しました。来るべき大災害を「生き抜く」覚悟、まさにサバイバルの精神が必要だと自覚できたのはひとまずの進歩かなと思っています。

本書では地震のメカニズムについて解説した後で、次に来るべき3つの災害について述べています。一つは首都直下地震、もう一つは「西日本大震災」、そして火山噴火です。「西日本大震災」というのは東海、東南海、南海の三つが連動する地震(さらに震源域が広がり、五連動地震となる可能性もある)ことで、著者は東日本大震災に匹敵する規模の巨大地震が西日本で「2040年までには確実に起きると思う」としています。

ここでピッタリなネット資料を紹介。一つ目は内閣府の「南海トラフ巨大地震、首都直下地震の被害と対策に係る映像資料」というもので、リアルなCGで迫力がありますし、一度は見ておく価値があると思います:

南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害と対策に係る映像資料 : 防災情報のページ - 内閣府
南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害と対策に係る映像資料について ●本映像資料??

もう一つはJ-SHIS Mapというもの。「30年 震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図」をはじめとして、様々なデータが見られるのであれこれ触ってみることを勧めます。

J-SHIS Map
地震ハザードステーションJ-SHISのホームページです。全国地震動予測地図の情報を公開しています。

なお、この本は若干古いので昨年の熊本地震には触れられていませんが、別の本(『地学のススメ』)では、「南海トラフ巨大地震に向けて内陸の直下型地震が増えるプロセスにあり、熊本地震がそのあらわれの一つであるという見方は十分可能」としています。J-SHIS Mapでは主な活断層ごとに想定地震地図が表示できるので見てみてください。

地震対策についても述べられていて、通勤先・通学先から災害時に歩いて帰宅する訓練をしてみることが勧められています。その他具体的な対策は他の情報ソースでも得られるでしょうからここでは割愛。ネットのものでは、ぼくの見た限り消防庁のものがよいかと:

http://www.fdma.go.jp/bousai_manual/index.html

しかしなんといっても必要なのは自分の身は自分で守る自助の精神、そして「知は力なり」と言われるように、地震と災害についての知識を身につけ、実行に移すことなのでしょう(もちろんぼくもその途上にあります)。このメールがみなさんにとってその一助となればうれしいです。

◆あとがき

あまりいたずらに不安をかき立てることは避けたいのですが、今後大震災が起きたときに、復興によって元のように立ち直れるかというと疑問ではないでしょうか。というのも、地震による直接の被害だけでなく、日本の財政上・安全保障上の問題が深刻化する可能性は否定できないからです。財政面で言うと、「異次元の金融緩和」の出口はただでさえ見えないというのに、巨大地震が起きても事態が深刻化しないなんて、誰も断言できないんじゃないかな……。安全保障に関しても、日本の国防力が低下し、緊張が走ることはあり得ると思います。実際、東日本大震災の際に中国とロシアが「自衛隊の警戒態勢を試すかのように、軍事偵察を活発にさせた」なんて話もあります(渡部悦和『米中戦争』講談社現代新書)。

地震災害時に生き延びるためには、単に地震と対策についての知識を身につけるだけでは不十分で、幅広い教養が生きてくるのではないか。鎌田先生は「教養は役に立つ」と言ってましたが、それはまさに生き抜くための教養を意味しているのだと思います。

コメント