「汗牛足」はボクが大学生の時に発行していた本の紹介メルマガである。基本的に当時の原文のままなので誤りや内容面で古いところがあるかもしれないが、マジメ系(?)大学生の書き物としてはそれなりに面白いものになっていると思う。これを読んだ人に少しでも本に興味を持ってもらえたら望外の喜びというものだ。
汗牛足(かんぎゅうそく)vol.32 (2018.8.13発行)
◆今回は、前回に引き続いてダニエル・リーバーマンの『人体六〇〇万年史』の紹介です。前回は進化・ミスマッチ病・ディスエボリューションという、この本の基本的な考え方を紹介しましたが、今回はもう少し具体的な話ができればと思います。えっ、何の話だったっけ、という方は先に前回分をもう一度ざっと読んでみるといいかもしれません。
■ダニエル・E・リーバーマン、塩原道緒(訳)『人体六〇〇万年史――科学が明かす進化・健康・疾病 〔上・下〕』ハヤカワノンフィクション文庫(2017) [Lieberman, D. E. (2013). The Story of the Human Body: Evolution, Health, and Disease.]
質問。最初の人類は何という名前(種)でしょうか。20世紀末生まれの自分はアウストラロピテクスと習った気がするのですが、21世紀初頭生まれの弟はそれは違うと言います。最初の人類はサヘラントロプス・チャデンシスだと。これは2001年にチャドで頭蓋骨が見つかった種らしく、その成果が今の教科書には反映されているようですね。本書によるとサヘラントロプスが生きていたのは少なくとも600万年前で、もしかすると720万年前までさかのぼるかもしれないそうです。したがって一般には人類の誕生は600~700万年前とされていて、本書の邦訳の題もそこから来ています。
では次の質問。人類と類人猿の違いは何でしょう?なぜサヘラントロプスは類人猿ではなく人類と判断されたのでしょうか。これは結構重要な問いで、なぜかというと後に我々ホモ・サピエンスが現れる人類とチンパンジーやゴリラなどの類人猿とを分けることになったきっかけは何だろうか、という問いと同じだからです。この問いに現在でも支持されている答えを最初に提示したのは、あのチャールズ・ダーウィンでした。彼は二足歩行によって二本の手が自由に使えるようになったことが、後の道具作りや大きな脳、言語などの人間独自の特徴につながったのではないか、と推論したそうです。いや、二足歩行なら類人猿だって時々やるし、頑張ればイヌでもできる、と思う方もいるかもしれませんが、彼らは普段四足歩行をしているので二足歩行者とはみなしません。常習的に二足歩行をする種はやはりその適応の跡が骨格に認められるのです。
とはいえ、初期人類は私たちよりも類人猿にずっとよく似ています。歩き方も今の人間とは全く違って小股で非効率だったようですが、現在のチンパンジーやゴリラよりは安定した直立歩行ができていたようです。しかし木登りに役立つ特徴がまだまだ残っているので、かなりの時間は樹上で過ごし、地上では二足歩行をするという、ときおりの二足歩行者だったのではないかと推測されています。
二足歩行をするように進化したならそれによって何か利点があったはずですが、それは何でしょうか。著者の推測は次のようなものです:「ちょうど人類の系統とチンパンジーの系統が分岐したころに、大規模な気候変動が起こっており、そんな状況でできるだけ効率的に食料を探し、手に入れるのに有利だったから、定期的に立ち上がって直立歩行する初期人類の行動が選択された」。当時はかなり寒冷化していて、アフリカで熱帯雨林が縮小し、大好物の熟れた果実が入手困難になると、植物の茎や葉などを探して食べなければならなくなったようです。こうして窮乏の時代に入ると、自然選択が強く働くようになります。初期人類が移動の際に安定した二足歩行ができていたとすると、ナックル歩行という効率の悪い四足歩行をしていた他の個体よりもエネルギー面で有利だったでしょう。(ちなみにチンパンジーは人間と同じ距離を歩くのに4倍のエネルギーを消費するそうです。)あるいは、樹上で木の枝の上に立ち上がり、ぶら下がっている果実を取るには上手に直立できた方が有利だったのかもしれません。
しかしながら、二足歩行はいいことずくめではありませんでした。欠点の一つは妊娠の負荷が大きくなったこと、もう一つはギャロップができなくなったことです。妊娠するとお腹が膨らみ、重心が前にズレて転びやすくなります。そこで背中を反らせて重心を腰の上に戻そうとするそうなのですが、そのときに腰椎に負荷がかかり、腰痛になりやすくなるそうです。自然選択は強い腰椎の関節を持つ女性が有利になるように働き、最も古い化石からもその適応が認められるそうです。また、四足歩行をやめたことで全力疾走の速度が大幅に落ちてしまい、走行中の急な方向転換もできなくなりました。
不利な点は確かにあったにせよ、初期人類は二足歩行による便益を活かして世代を重ねていったのでしょう。彼らはおそらく食べ物を求めてアフリカのある一帯を歩き回っていて、木登りもそれなりにできたと想像されています。このような生活様式が200万年続いたのちに、今から400万年前に登場したのがアウストラロピテクス、ということになります。ここからさらに面白くなっていくところなのですが、以降の人体進化の物語はぜひ本書でお楽しみください。
以上のような人間・人体の進化の歴史を追うのが本書第1部の内容です。人類誕生が600~700万年前なのに対して、ホモ・サピエンスの誕生は20~30万年前という比較的最近の出来事であるということは覚えておく価値があるかもしれません。そして狩猟採集民だったヒトが農業を始めたのはようやく12,000年ほど前らしいので、長らく狩猟採集民をやっていたヒトが最近農業を始めました、という感じなんですね。産業革命に至っては西暦1800±50年にイギリスから起こったので、仮に一世代20年としても今からわずか10世代くらい前の出来事ですね。日本の場合は明治維新から150年なのでたったの7,8世代前の話です。このタイムスケールを想像すると私たちがいかに「つい最近」の生活形態の激変の只中にいるかがよく分かると思います。
本書第2部では農業と産業革命が取り上げられます。これらは前回紹介した「文化的進化」の2大エポックですね。農業や産業革命はしばしば「進歩」とみなされますが事はそう単純ではありません。前回紹介したように生活形態の激変はミスマッチ病を引き起こすことにもなりましたし、生活のために働かなくてはならない時間や日常のストレスなどの面で見ても、必ずしも時代を経るにつれて人間が幸福になったわけでもなさそうです。
本書では農業と産業革命についてかなり包括的にいろいろと書いてあって、これまた面白いのですが、とても全ては紹介しきれません。なので、農業や産業革命がどのようなミスマッチ病を引き起こしたか、という点に絞ってざっくり話を進めることにします。
農業を始めるということは、コメやトウモロコシやコムギ、ジャガイモなどのデンプン質の植物を主食として大量に栽培するということです。こうすることで狩猟採集民よりもより多くのカロリーを得ることができるようになり、人口が急増することになりました。しかしながら、食べられる食物なら何でも食べていた狩猟採集民とは違って、農民の食事はとても単調で、食物繊維やタンパク質、ビタミンやミネラルの摂取量が少なくなりました。栄養の多様性と質が損なわれたことで、農民は壊血病や脚気、貧血などの病気にかかりやすくなります。また、デンプンの取りすぎで狩猟採集民の間では稀だった虫歯に悩まされるようにもなりました。農業が始まるとミスマッチ病も登場してきたというわけです。
また、人口が増えて大勢の人間が集落に集まって暮らすようになり、集落間で通商が始まると伝染病が流行するようになりました。結核、ハンセン病、梅毒、ペスト、天然痘、インフルエンザといった感染症は農業が始まってから広まるようになったのですね。また、農業の開始とともに定住するようになると、溜め込まれた大量のごみや汚物によって衛生状態が悪化しました。
農業によって変わった食生活は産業革命によって再び大きく変わることになります。特にここ半世紀で小規模な農家に変わって巨大企業が食料生産と製造を担うようになりました。脂肪、デンプン、糖、塩が効率的に低コストで生産されるようになって、今では安くで高カロリーな食品が手に入ります。むしろ低カロリーな食事を得ようとする方が、皮肉にも余計にお金がかかるくらいですよね。
低コスト化とともに、食品の加工度も上がりました。ざっくり言うと、食物繊維が少なくて、糖分と塩分と脂肪分が凝縮された加工食品が多く出回るようになりました。素早く簡単に消化できる食品を食べると、血糖値の急速な上昇が起こるのですが、人体はそれに十分には適応していません。これが肥満や2型糖尿病につながる、というわけです。
衛生状態は言うまでもなく産業化時代に入ってよくなりました。医学は目覚ましく前進し、かつて農民を苦しめた感染症のいくつかは根絶されました。自給自足農民を苦しめていたミスマッチ病の多くは予防や治療が可能になり、かつてほど問題ではなくなりました。
身体活動はどうでしょう。農業から工業へ、工業からサービス業へと労働形態が変化するにつれて身体活動の量はどのように変化したのでしょうか。身体活動レベル(一日に費やすカロリー総量を、身体を機能させるのに必要な最低限のカロリー量で割ったもの)という指標があるのですが、先進国の場合、座っていることの多い事務職や管理職の人は1.56、製造業や農業に従事する人は1.78で、狩猟採集民の平均1.85と比較するとやはり減っていますね。また、自動車、自転車、エスカレーターやエレベーターは移動のエネルギーコストを抑え、冷暖房は体温調節に必要なエネルギーを減らし、掃除機や洗濯機なども家事労働をより容易なものにしてくれました。「わずか数世代という短期間で、産業革命は人間の身体活動を劇的に減らした」のですね。
現代人のよくある悩みはよく眠れないことです。実は「人類は最近まで、自分一人で孤立した状態で眠ることはめったになく、たいてい親子きょうだいで寝床をともにしており、昼寝も毎日していたし、全体の睡眠時間も長かった」そうなのですが、今では多くの要因が人々の睡眠を妨げています:「明るい照明、ラジオやテレビなどのさまざまな娯楽が、それまでの通常の就寝時間のずっとあとまで私たちを刺激するようになったこと」や、「過度な飲酒、貧しい食生活、運動不足、不安、憂うつ、その他もろもろの心配事など、身体的要因と心理的要因が微妙に絡みあったストレス」などなど。睡眠が不足していると免疫が低下したり、成長が阻害されたり、2型糖尿病にかかるリスクが増大するそうで、困ったものですね。
「つまるところ、産業化の時代は農業革命によって噴出したミスマッチ病の多くを解決することに目覚ましく成功した。しかし同時に、非伝染性の新たなミスマッチ病が生み出されたり、悪化したりもしてきた。そして私たちはいまだそれを克服できておらず、根絶のための総合的な努力が続けられてきたにもかかわらず、その広まりと深刻化は今も世界中で進行している」という状況です。いろいろ抜けていますが以上が第2部のだいたいの話です。
最後の第3部はミスマッチ病とディスエボリューションに焦点を当てて説明されています。前回も書いたように、ミスマッチ病の原因は3つに大別されます。環境の変化によって身体に与えられる刺激が多すぎることによって起こる裕福病と、少なすぎることによって起こる廃用性の病と、新しすぎることによって起こる新しさの病です。第3部では裕福病の例として肥満、2型糖尿病、心臓疾患、生殖組織がんが、廃用性の病の例として骨粗鬆症、埋伏智歯、一部の免疫障害が、新しさの病として偏平足、近視、腰痛が取り上げられます。そして最後に結びとして、「人間の身体の過去の物語から得られる教訓をどう未来に生かすかについて」筆者の考えが述べられています。
というわけで、第3部で取り上げられている病気で気になるものがあれば読んでみるといいでしょう。私の場合はこれを読んで、ぶっ続けで本を読んだりしていないでもっと運動しないとダメだなと思いました。
ここで終わりにしてもいいのですが、前回「肥満についての話を取り上げようかと思う」などと書いていたので、肥満について少し書きます。しかしこの本は肥満についてもそれなりに詳しく書かれていて、人間がエネルギーを消費したり蓄えたりするメカニズムにも説明が及んでいます。どのように太るのか、という点については本を見てもらうことにして、特に近年なぜ肥満が広まっているのかについてざっくり書くことにしましょう。
BMIというのを聞いたことがあると思いますが、これは体重を身長の二乗で割ったもので、25以上30未満が過体重、30以上が肥満とされています(ほかの定義もあります)。体脂肪率を考慮しない欠点もある指標ですが、とりあえずこれにしたがって話を進めることにしましょう。アメリカでは成人の3分の2までが過体重または肥満らしいのですごいですね。日本の場合は男性の3割、女性の2割程度が過体重または肥満のようです(厚生労働省「平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要」)。
少なくとも先進国では肥満・過体重の人が増えているのですが、これは産業革命以降、とくにここ50年で深刻化しています。いくつかの要因についてはすでに第2部の紹介で述べました。つまり、食料生産の効率が上がってより安くて大量の食品が作れるようになったことと、消化しやすい加工食品が多く出回るようになったこと、そして身体活動レベルが下がったことですね。
肥満の原因と言えばしばしば「食べすぎと運動不足」が取り上げられます。これは確かにそうなのですが、実はそれだけではなくて食べるものもここ数十年で変わっています。消化しやすくて血糖値がすぐに上昇しやすい食べ物や飲み物が出てきたのです。ここでは特に異性化糖の肥満への寄与について見てみることにしましょう。
炭酸飲料やスポーツドリンクなどのジュースや、(安価な)甘いお菓子(例えばグミやゼリー)を飲んだり食べたり機会があれば原材料名を見てみてください。たいてい「高果糖液糖」「果糖ぶどう糖液糖」「ぶどう糖果糖液糖」「異性化液糖」のいずれかが入っています。これらはコーンスターチというトウモロコシ(おそらく遺伝子組み換えのもの)から得られたデンプンを異性化して得られた液糖(シロップ)で、異性化糖(high-fructose corn syrup)と呼ばれているものです。なんだかややこしいですが、要するに化学的に低コストで作られた果糖(フルクトース)とブドウ糖(グルコース)が主成分のシロップです。1970年代にこの手法が開発されたのですが、砂糖に比べて安いので代用品として広く使われるようになりました。
異性化糖の主成分であるフルクトースやグルコースはどちらも自然界に存在するものです。とくにデンプンを分解して得られるグルコースは重要なエネルギー源ですね。しかしながら、グルコースやフルクトースを含む自然の素材を摂取する場合と、異性化糖で甘くした炭酸ジュースを摂取する場合とでは消化・吸収される速さが異なります。この速さを決定的に左右するのが食物繊維で、これがあると食物がよりゆっくりと分解されるのです。一方で食物繊維を含まない高カロリーな食品や飲料を摂取すると、より早く消化されて血糖値が急速に上昇し、このことが肥満や2型糖尿病のリスク高めることになります。その詳しい仕組みについては本を見てください。
結局のところ、私たちが血糖値の急速な上昇を頻繁に体験するようになったのはどうやら最近のことらしいですね。数百年前の祖先にとって、容易に消化できる糖分を摂取する機会は蜂蜜を食べるときぐらいしかなかったようです。蜂蜜を得るのは大変だったと思うのですが、今では百円玉で甘いお菓子なりジュースなりが手に入ってしまいますね。
また、肥満の要因として別に挙げられるのが、睡眠不足やストレス、腸内細菌です。ストレスや睡眠不足はコルチゾールやグレリンというホルモンを出させ、それが肥満に寄与するそうです。腸内細菌については半年前のvol.26でブレイザーの『失われてゆく,我々の内なる細菌』を紹介したときにも、抗生物質で腸内細菌の生態系が乱れることを書きました。実際、家畜に抗生物質を投与して太らせているので、人間で同じことが起きても不思議ではありません。慢性的なストレスや睡眠不足、抗生物質はこれまで人類がほとんど体験してこなかったことなので、改めて自分は人類史上激変の時代に生きているのだな、と思わされますね。
最後に、肥満であることそのものが悪いというわけではない、という話。肥満でも健康な人はいますし、痩せていても不健康な人はいます。運動をしていない痩せた男性は定期的に身体活動をしている肥満の男性よりも死亡リスクが2倍高いという研究結果もあるくらいです。確かに、肥満、とくに内臓脂肪が多すぎると2型糖尿病や心臓血管疾患や生殖器がんのリスクが高まるそうですが、BMIが25以上ということ自体は病気でもありませんし、必ずしも悪いことではありません。むしろ、より根本的な問題は、私たちが何をどのくらい食べているのか、どのくらい運動しているのか、ということでしょう。食べ物の質に限って言えば、残念ながら農業を始めて以来悪化の一途をたどっているように思われます。
私たちは文化的進化によって多くの恩恵を受けていますが、それと同時に多くのミスマッチ病が発生し、ディスエボリューションによってそれが広まっています。だからといって狩猟採集民に戻るべきだとは全く思いませんが、文明がもたらす恩恵を無批判に享受しているだけではダメなのではないかと考えさせられますね。自分は生物学的進化によって誕生したヒトという種の一個体であることを思うと、自分の生活習慣はこれでいいのか、という気にもなります。これからの文化的進化の進むべき方向を考える上でも、本書からは多くのヒントが得られると思うので、この夏にでも一読してみてはいかがでしょうか。
◆あとがき
「汗牛足」というタイトルは、「汗牛充棟」という四字熟語から着想を得ました。意味は「蔵書が非常に多いこと」で、蔵書を牛に引っ張らせると牛が汗をかくほど重く、積み上げると棟木まで届くほどである、ということから来ています。しかし、今回紹介した『人体六〇〇万年史』を読んで、牛が汗をかくというのはおかしいのではないか、と思いました。本書によれば、「たいていの哺乳類は掌(足裏)にしか汗腺がないが、類人猿と旧世界ザルは他の部位にも多少の汗腺があり、さらに私たちは人類の進化のどこかの段階で、汗腺の数を五〇〇万から一〇〇〇万個と飛躍的に増やした」とあります。したがって、牛は少なくとも人間のようには汗をかきませんね。(いや、これは単なる擬人化だと言われればそうなのかもしれませんが。)
そういえばどうして人間には他の哺乳類にあるような体毛がないのだろうと疑問だったのですが、体毛があると汗をかいても地肌に風が通らずうまく蒸発しないからだったんですね(なお、実際には体毛がないわけではなくて、体毛密度はチンパンジーと同じなのですが、人間の場合は「桃の産毛のように非常に細い」そうです)。著者によれば、発汗によって体温を下げるのは持久走のための適応なのだとか。
人間は走りながら汗をかいて体温を下げられますが、四足動物の場合はそうはいきません。浅速呼吸という、あえぐように息をすることで体温を下げているのですが、ギャロップで駆けている間はそれができないそうなのです。つまり、人間は全速力ではシマウマに到底かなわないとしても、シマウマがギャロップをしなければならない程度の速さでずっと追いかけ続ければ、人間は発汗で体温を下げられる一方でシマウマの体温は上がり続けます。特に日中の暑い時間に追いかければ、太陽高度が高いので、二足歩行者の人間の方が直射日光を受ける面積が少ないという点でも有利です。シマウマが限界に達して熱射病を起こして倒れるまで走り続ければ、難なくしとめられる、というわけですね。この驚きの狩猟方法を「持久狩猟」と著者は名付けています。
短距離走では哺乳類の中で人類は底辺を競うレベルではないかと思われますが、約190万年前に登場したホモ・エレクトス以降、人類は哺乳類屈指の長距離ランナーになったそうですね。今年は特に暑くて、熱中症に注意しろとか、日中には外出を控えろ、とよく言われますけど、百数十万年前の先祖はあえて暑い日中に獲物を追ってひたすら走り続けていたのかもしれません。
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